環境配慮型不動産と入居者のスマートな関係
by Carmen Lau | carmen.lau@csr-asia.com

2015年12月に開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて採択されたパリ協定は、各国政府が温室効果ガスの排出削減に向けて最善を尽くすことで地球規模の気候変動に取り組み、進捗状況を「自国が決定する貢献(NDCs)」の中で報告することを求めている。適応計画の中で重要な役割を担う建築環境の脱炭素化に向けてすでに政府側も動き出し、提出された164のNDCsのうち132が建築業界にはっきりと言及している。建築物や建設業界のエネルギー消費は、世界全体の消費量の三分の一以上を占め、温室効果ガス(GHG)の四分の一近くを排出している1 。既存の取組みと共に各国政府が公約を達成した場合、建築物に関連する二酸化炭素の排出量の約 60%に相当するのだ。GHG削減に向けた取組みを強化することで、建設業界は経費を節約し、経済的利益を得ることができる。例えばグリーンビルディング(環境配慮型不動産)の推奨者は、技術や政策、建築設計の改善を通してエネルギー効率を高め、排出量の削減を図っている。

建築物の性能を左右する入居者行動
しかしながら、技術やビル管理システム、建築設計は低エネルギー・ビルを担保するものではない。米国環境保護庁(Environmental Protection Agency)と欧州環境機関(European Environment Agency)の研究によると、建築設計および運営において重要な役割を担うのが入居者行動だ。なぜなら人間は生涯の約9割の時間を建築空間内で過ごすとされているからである。
建築設計の最適化と性能評価、さらにエネルギー・シュミレーションにおいて入居者行動が鍵となる2 。複雑で変化しにくい行動であるが、建築物の技術的性能を改善するほどのインパクトはあるのか。電気を消したり、快適な室温にエアコンを調整したり、窓を開閉しての換気、室内の明るさのためにブラインドを上げ下げする、建物の中を歩き回るなど、すべての行動が建物のエネルギー使用と環境性能に実際大きく影響しているのだ。

性能を高める環境
入居者は公私共にかなりの時間を建物の中で過ごすため、適正な環境を整備することで生産性の向上のみならず健康、ウェルネス、忠誠心を高めることができる。つまりビジネスの持続可能性と長期的な利益につながるのだ。企業の運営コストのうち、人件費が約90%を占めるのに対して、賃貸料は9%にとどまり、エネルギーコストにいたってはわずか1%である。生産性を1%高めるだけで、最終損益と企業の競争力に大きな影響を及ぼすことができると言えるだろう。

既存の建物と比べ、グリーンビルディングは運営コストの大幅節約をもたらす。開発業者や所有者、投資家は健康でグリーンな建物がもたらすビジネス面の価値を見抜いている。世界グリーンビルディング協会(World Green Building Council)がカナダのビル所有者200名にインタビューした結果、健康な建物は通常のものと比べて7%以上の高値がつくと回答した者が38%、半数ちかくの回答者は借り手がつきやすいとし、さらに三分の一は割増しの賃貸料を設定していると回答した。

経済的・社会的に割が合う健康なグリーンビルディングを普及させるには
グリーンビルディング評価ツールを活用し、建物が特定のグリーン要件や基準を満たしているか評価・認証することができる。BREEAMや LEED、 BEAM Plus、 CASBEE、 Green Star、 DGNBなど世界的に活用されているさまざまな評価ツール(green building rating tools)には健康やウェルネスの項目が盛り込まれているが、主に既存の建物の性能評価に焦点を当てているため、多くの場合、入居者の健康とウェルネスへのインパクトは評価の対象となっていない。2014年に導入されたWELL認証(WELL)は、根拠に基づく医学研究と設計・建築の優良事例とのギャップを埋めることを目指し、建築空間の活用による人間の健康・ウェルネス・快適性の促進を図っている。快適な建物での仕事や生活からコストを削減し、不動産に真の付加価値をつけている.3 。これまで662のプロジェクト(662 projects)により1.26億平方フィートを超える面積がWELLに登録・認証待ち・認証済みである。このうち四分の三はオフィスビルであることからも、多くの開発業者や所有者、投資家が健康に過ごせるグリーンなオフィスに関心を持っていることが分かる。

健康でグリーンな職場環境を生み出すには認証を得る以外にも、次に示すように、世界グリーンビルディング協会(World Green Building Council)が提唱する8つの特性を満たすことが有効である。

http://www.worldgbc.org/sites/default/files/Content%20pages%208%20features%20of%20green%20healthy%20offices.jpg

出典: World Green Building Council 

ビル開発業者や所有者、投資家、サステナビリティ責任者、人事担当者、施設管理者など、入居者側も所有者・管理者側も双方が協働して、建物で働く人々の健康・ウェルネス・生産性を評価・定量化し、最終的には建物自体も評価することができる。グリーンビルディングの取組みが世界的に広がるにつれ、建築空間に変化が起きている。エネルギー効率と入居者行動の改善を加味した設計が進むことで、パリ協定を批准した全ての国にとり、二酸化炭素の削減目標を達成する追い風となるだろう。

健康な建物に関する基準および取組みの詳細については、CSRアジアまで。

写真クレジット:

出典:
1. The Global Alliance for Buildings and Construction
2. IEA-EBC Annex 66
3. Compliment to LEED:  WELL – A New Building Standard Focused On Health & Wellness

執筆:カルメン・ロー